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翻訳の仕事で気をつけなければならないことのひとつに、登場人物の一人称に何を使うか、があります。英語でいうところの「I」、スウェーデン語なら「jag」をどう訳すかによって、日本語の文章はずいぶんとニュアンスのちがったものにななるからです。

たとえば、"I am a cat."という原文があったとします。英文和訳のテストなら、「わたしは猫です」で〇、でも絵本や文学の翻訳となると、猫の性格や前後関係、作品全体のバランスなどから、「ぼくは猫だよ」、「おれは猫だぜ」、「おいらは猫さ」とも訳せます。猫がメスなら、「あたしは猫なの」、「わたくし、猫ざます」、「うち、猫や」もありかもしれません。きどったオス猫なら、漱石風に「吾輩は猫である」と言うかもしれません。

IMGP0615.JPG二人称の"you"についても、同じことが言えます。写真の猫は、たまたま、スウェーデンの田舎で出会った猫です。オスかメスかはわかりませんが、この猫が擬人化されていて、日本語を話すとしたら、どんなふうにしゃべるでしょうか。私に向かって、「あんた、日本から来たの?」と言うか、「おまえ、日本人だな」と言うか。それとも、「そちは、いったい何者じゃ? 吾輩はスウェーデンの猫である」なんて言うでしょうか......?

日本語で人称の言い方がいろいろえらべるというのは、翻訳家としては悩ましい面もあるのですが、実はとても楽しく、想像がふくらむことなのです。